安心してと言われても
1週間はあっという間に過ぎた。案の定、拓也は渋い顔をしていたが、紀子は拓也を連れて家を出て、指定された町内会館に向かった。
駐車場に背中に「祭り」とプリントされた青い法被姿の明日香を見つけ、紀子は声をかけた。
「明日香さん、お招きありがとね」
「あ、長尾ちゃん。お、たっくんもこんにちは」
紀子は拓也の背中をポンとたたく。
すると拓也がうつむきながら弱々しい声を出す。
「……こんにちは」
「よろしくね~。よーし、それじゃ、中に入って」
明日香に案内されて、紀子たちは会館の中に入る。広がる光景に、思わず目を見開く。
正面の広い座敷には、浅黒い肌にひげを生やしたこわもての男たちが陣取っていて、昼間だというのに赤ら顔で酒を飲んでいた。中には肩や腕に入れ墨が彫られている者もいる。実際に目の当たりにしたことはないが、ドラマで見かける暴力団の事務所と相違ない光景が、目の前に広がっていた。
「え? な、何これ?」
戸惑う紀子と拓也を明日香は背後から押して中に入れようとする。
「ね、ねえ、これ、どういうこと?」
「安心して。みんな良い人たちだから」
座敷の中にいる面々を見て、明日香の言葉はとてもじゃないが信用できなかった。
●コワモテな男性陣の中に放り込まれた紀子と拓也。明日香の真意は? 後編【 「親の離婚と転校で引きこもりがちに…」思ってもみなかった結末を呼び込んだ息子の「いじらしい行動」とは?】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。