明日香の誘い
梅雨が明ければすぐに気温は上がり、太陽は勤勉に肌や町を焼くようになった。終業式を迎え、夏休みに入ると、学校へ行かなくてもいいことにほっとしているのか、拓也の表情も心なしか明るくなったような気がする。
「夏休み、行きたいところとかないの?」
「んー」
夕食を食べながら尋ねると、拓也はあごに手を当てて考えこむ。仕事の昼休みに同僚と外へ出ると、自転車をこぐ小学生たちとすれ違ったり、アイスを食べ歩きする小学生を見かけるのは夏休みならではだったが、親しい友達のいない拓也はずっと家にいる。自分の都合で拓也が1人で過ごしていることを思うと、どうしても心苦しく感じてしまう。
「どっかに旅行に行こうか? 海とかどう?」
「うん、いいよ。海行きたい」
「オッケー。じゃあお母さん、探しておくね」
紀子は拓也を元気づけるように笑顔を向ける。拓也の笑顔がどこか悲しげだったのは、きっと気のせいではないのだろう。
とはいえ、紀子にはどうすることもできず、日々が過ぎた。
ある日の仕事帰りに会社を出ると、明日香と遭遇する。
「あ、長尾ちゃん、おっつー!」
「明日香さん、こんばんは。もう会社しまっちゃったけど」
「今日は配送じゃないんだ。ばぁばん家に子供を預けてるから、これからお迎え。あ、長尾ちゃん、来週ってひま?」
「来週ですか……?」
「うん、夏祭りあるんだけどさ、良かったらたっくんと一緒に遊びにおいでよ。うちの知り合いが旗振ってやってんだけど、けっこう盛り上がるんだよね」
「あ、そうなんだ。どうしようかな……」
紀子は答えを言いよどむ。きっと地元の祭りには同じ小学校の友達も大勢いるだろうから、拓也はあまりいい顔はしないだろうと思った。
しかし紀子のそんな思案を知る由もなく、明日香は紀子に顔を近づける。
「絶対、楽しいんで! ね? いいでしょ?」
「う、うん。じゃあ、お願いするね……」
「いえーい、さっすが長尾ちゃん。ノリいいじゃん!」
明日香は手をたたき、紀子と連絡先を交換するや子供たちを迎えに行った。すぐに連絡がきて、当日の待ち合わせ時間が指定された。