<前編のあらすじ>
明里(35歳)は、毎年お盆には家族で義実家へ帰省していた。今年は前日になって夫に急な仕事が入り一緒にいけなくなってしまった。
いとこに会えるのを楽しみにしていた子供たちのため、明里は仕方なく慣れない車を運転して、義実家へ向かったが、慣れない明里の運転に娘が酔ってしまったり、車線を間違えて違うインターチェンジで高速を下りてしまったり、あおり運転に絡まれたりと前途多難……。
果たして到着予定時刻に明里たちは義実家へたどり着けるのだろうか……?
●前編:「子供たちのため…」慣れない運転でワンオペ帰省、ペーパードライバー女性に次々と襲いかかる「想定外の落とし穴」
間一髪からの渋滞
車内に響いた美理の声に、明里は反応できなかった。気が付いたときには急発進した後ろの車が横に並んでいて、サイドミラーをかすめるぎりぎりで内側から明里たちを追い抜いていく。
明里は急ブレーキを踏む。シートベルトが肩に食い込む。後ろの車は明里たちを気にするそぶりもなく、排ガスを容赦なく吐きかけて走り去っていった。
「……大丈夫?」
ハンドルに突っ伏したまま後部座席に声をかける。
「うん、怖かったけど……」
「全く、こっちの都合も考えてよね」
明里はため息と一緒にいら立ちを吐き出し、もう一度車を発進させる。安全運転を心掛けながら、なんとか高速道路に戻ることができた。
しかし苦難はそれで終わらない。さっきまですいていたはずの道路には、車がひしめき合っていた。追い打ちをかけるように、カーナビの音声が渋滞情報を伝えてくる。30キロの渋滞が待ち受けているらしい。
30キロの渋滞ということはこれを抜けるまで3時間は掛かるだろう。暗くなるまでに義実家に着くことは絶望的だった。
明里は義両親に遅くなりそうですと連絡を入れておく。義母からの返信はすぐに返ってきて、焦らず安全運転でねと気遣ってくれる。
明里は大きく息を吐き出して、気持ちを落ち着かせた時間は気にせず、とにかく到着することに集中しよう。渋滞に捕まったことで、逆に吹っ切れたような気持ちになった。