泥水が店の中にまで…
その夜、市内では観測史上最大の降水量を記録した。
街は浸水被害が出て、当然、柏谷食堂も同様の被害を受けた。気が付いたときにはもう店のなかに泥水が入り込んでいて、水が引き、1階に下りられたのは翌日の16時を過ぎたときだった。調理場に向かった良平に実花は声をかける。
「どう?」
良平は首を横に振った。
「厨房(ちゅうぼう)の器具がもう全部ダメだ。冷蔵庫もエアコンも全部、使い物にならなくなってる」
「……食材は?」
「ダメ。どれも廃棄しないといけないな」
実花は頭が重くなるような気分がした。仕入れた食材を料理に使えず、廃棄するということはそのまま赤字ということだ。さらに調理器具、エアコン、全てを買い替えないといけない。被害の額は相当なものだった。
良平は台の上に両手をついて打ちひしがれていた。
「……しばらくは営業もできそうにないな」
丸まった良平の背中に実花は言葉をかけることができなかった。店を再開できる見通しさえついていない。そもそも機材を買い替えることができるのかさえ定かではない。
これからの店と、自分たちの将来がどうなるのか分からず、実花も暗たんとした気持ちになった。
●実花たちの定食屋はどうなってしまうのか……。後編【 「もう畳むか」ゲリラ豪雨で浸水被害…廃業寸前の定食屋を救った「起死回生の一声」とは?】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。