近所の川が氾濫?

その日もいつものように仕事を終えて、4人そろってリビングで晩ご飯を食べる。定食屋の2階が居住スペースとなっていて、テレビをつけながら、世間話をしていた。

「あら、雨が降ってきたみたいね」

雨が窓をたたく音で、由美が気付く。

「ちょっと雨脚が強いですね」

実花が答えると、由美がこちらに目を向けた。

「洗濯物はもう入れた?」

「ええ、それは大丈夫ですよ」

由美の質問に実花が答えて、雨に関しての話は終わる。そこからはまたテレビを見ながらたあいのない会話を続ける。雨のことなんてすぐに忘れるはずだった。しかし、雨脚はどんどん強くなっていき、由美が心配そうに窓に目を向ける。

「今日って、雨予報なんてあったかしら?」

「いや、なかったと思うよ」

良平が携帯で調べながら返事をする。

「最近、ゲリラ豪雨も多いし、きっとそれでしょう」

実花の説明を聞き、由美は納得したようにうなずいていた。

ゲリラ豪雨は突然、激しい雨が降ることを指す。大抵はすぐにやんで終わりのはずだが、今回は違った。滝のようなごう音が窓の外から長い間聞こえていた。全員がその激しさと長さに不安を覚える。そこで良平の携帯が鳴った。

「誰?」

実花の質問に、電話を終えた良平は「田中さん」と答えた。どうやら、近くの工務店で働いている田中が心配で連絡をくれたらしい。田中はウチの店の常連客でもあった。

「この雨で、近くの川が氾濫するかもしれないんだと」

「えっ⁉ そうなの⁉」

「ああ、避難注意報が出るみたいだけど……」

良平は両親に目を向ける。

「この雨じゃ、避難なんてできるわけないよな……」

由美はあり得ないといった顔でうなずく。

「そうよ。むしろ外に出たら、危ないんじゃない」

由美の意見に実花も賛同する。

「そうよ。ここは2階だし、家にいたほうが安全だって」

博は何も言葉は発さないが、実花たちの意見に納得しているようにうなずく。実花たちの意思を受けて、良平はうなずく。

「分かった。とにかくここでじっとしておこう」