遼さんが相続財産を求める理由

「遺留分や寄与分という権利を知っているか?」

相続財産を求めた理由について遼さんは吉岡さんに対して語りだす。

「俺は長年お前たち親子にお金を出してきた」

確かに遼さんが吉岡さん親子のために支出してきた額は相当だ。正確に計算することは難しいが、ざっと計算するだけでも数百万円はくだらないだろう。

「本来ならば俺も相続人だ。だが、遺言書の記載によって相続人が君しかいない」

遼さんはそう述べる。それもそのはず。崇さんの遺言書は私が作成したからだ。遺言書の内容は「すべての財産を吉岡さんに相続させる」といった内容のもの。当然遺言書通りに相続がなされれば財産は吉岡さんの総取りとなる。

一方で、遼さんは崇さんの兄にあたる。崇さんは両親祖父母、そして配偶者共にすでに他界している。すると本来相続人となるのは子である吉岡さんと兄弟姉妹にあたる遼さんだ。

法律上、吉岡さんが4分の3、崇さんが4分の1の割合で相続財産を分配することになるのだ。

しかし、これは原則論だ。相続人が誰になるのかと相続割合がどうなるのかは遺言書があればそこへ記載されている内容が優先されるのが基本となる。とはいえ、感情面の問題は別だ。法律で決まっているからと「はいそうですか」とはいかない。

「俺の過去の支援の内容を鑑みると、俺にも財産を受け取る権利があると思う」

遼さんの発言に吉岡さんは困惑する。

それもそのはずだ。わずかながらの貯金や小さく立地も良いわけではないが自宅もある。どれも父の崇さんが大切に築いてきたものであり、いくらお世話になった叔父とはいえ抵抗がないわけでもない。

「考えさせてください」

吉岡さんはそう振り絞り、その日の遼さんとの話し合いは幕を閉じた。

●叔父・遼さんからの主張に戸惑う吉岡さん。2人の話し合いはどのような結末を迎えたのでしょうか? 後編【「財産を渡すべき?」世話になった叔父との“相続トラブル”に悩まされる男性に、行政書士の回答は…】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※登場人物はすべて仮名です。