「今日はこれ贈るよ」――LINEで気軽に約束することが当たり前となった時代。しかし、相続の現場では「親や祖父母が亡くなった後、孫や子がLINEで約束された贈与を主張してトラブルになる」というケースが増えており、法務の視点からは注意が必要である。今回は、LINEでの贈与約束が原因で発生したトラブルの一例を紹介し、その法律的背景と現実的リスク、そして実務的な注意点を解説する。

LINEでの約束がもたらした相続の悲劇

「50万円、来年の引っ越し祝いとしてあげるから楽しみにしててね」

スマホの画面に並んだ祖母からのLINEのメッセージ。絵文字つきで、どこか楽しげな口調だった。高橋陽菜さん(仮名)はそのメッセージを何度も見返し、安堵の気持ちで胸をなで下ろす。なぜなら、転職を機に来年から都会へ引っ越す予定だったところ、費用が足りず困っていたからだ。

祖母が援助してくれると約束してくれた金額は50万円。それが、彼女にとってどれほどありがたかったか、言葉では言い表せない。

だが、数カ月後――そのLINEの主、高橋さんの祖母は突然この世を去った。入院もせず、苦しむ様子もなく、静かに眠るように旅立ったという。まさに天寿を全うしたといえる祖母の最期であった。

しかし、おばあちゃん子だった高橋さんは、祖母の死に対し、体の一部をもがれるよりもつらい苦しみを感じたようだ。それによって彼女は転職先への入社予定を数か月遅らせることとなった。

そうした中で親族間では既に相続の話が進み始めており、それが高橋さんの耳にも入ってくる。

「相続の話が進んでいるのを知った時、『本能的に言わないとまずい」と思ったんです」と高橋さんは当時の胸中を語る。

高橋さんは葬儀の数日後、親族の前でこう口を開いた。

「私、おばあちゃんから、引っ越し祝いに50万円贈るって言われてたんです。LINEにも残ってます」