新しい生活

それから薫と新吾は離婚をした。親権は当然、薫のもの。若干揉(も)めはしたものの、養育費、慰謝料、全ての請求が認められた。薫は慰謝料と奨学金などを使いながら、看護学校に通い、無事に3年後、看護師免許の資格を取得した。

今日はいよいよ看護師としての出勤初日だった。

「ほらほら、何してるの? 早く行こうよ」

小学5年生になった実里が薫に笑いかける。

「どうせ、緊張してるんでしょ?」

高校生になった美緒が冷静に薫の胸中を言い当てる。

2人の娘は薫の手を握る。

「え……?」

「大丈夫だよ。ママなら」

「そうだよ。あんだけ頑張ったんだから」

「ありがとう、2人とも」

薫は思わず天井を仰ぐ。せっかくのメイクが早速崩れてしまいそうだった。

「早くしないと遅刻するよ?」

美緒にせかされて、3人は家を出る。3年前に越してきて、新しい生活を四苦八苦しながら始めた小さなマンション。また今日から、新しい生活が始まる。

「ね、ママ。今日晩御飯何がいい? わたし作ってあげる」

「あたしも作る!」

「えー、ほんと。何がいいかなぁ」

手をつないで歩き出す。きっとこれからも大変なことはあるだろう。養育費や慰謝料をもらっても、お金の問題は常に薫の頭を悩ませる。

でも3人ならきっと大丈夫だ。薫は、この一歩の先に幸せが待っていると、信じている。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。