最寄り駅の改札を抜けると、夫の敦志が待っていた。少し早く仕事を終え、食品の買い物をしていた敦志は両手に持っている膨らんだビニール袋を掲げる。

「お疲れさま。買い物ありがとうね」

「全然。エコバッグ持ってくればよかったって後悔してた」

真希は敦志と並んで歩き出し、袋のなかをのぞき込んだ。

「ねえ、また買ったの?」

左手に持っている袋には、パッと見ただけで3袋くらい“シャインクッキー”が入っている。

「いやぁだって好きなんよ、シャインクッキー。思い出もあるしな」

「そうだけど、わざわざ買わなくてもいいのに」

シャインクッキーは「特別な幸運をあなたに」をコンセプトにするいわゆる“ちょっといいお菓子”だ。真希たちが子供のころは特別なおやつの代表的な存在で、パーティーにはケーキかシャインクッキーをと言われるくらいに人気のお菓子だった。母子家庭だった敦志の家庭では、スーパーのポイントがたまると引き換えられるシャインクッキーが、お使いに出たときの何よりのご褒美だったらしい。

1度はメーカーの倒産で製造終了となったシャインクッキーだったが、去年復活を遂げた。もちろんかつての人気を取り戻したとまではいかないが、以来、敦志は見つけるたびに買い込んでは晩酌のお供やおやつにしている。もちろん真希自身も小さいころから食べてきたシャインクッキーには思い入れがあったから、さすがに大量にストックされているのを見ると苦笑いを浮かべこそすれ、悪い気分はしなかった。