義母からの電話

帰宅した真希たちは家事を分担して夕食を済ませる。順番にシャワーを浴びて、発泡酒を開けシャインクッキーをつまむ。敦志のスマホが鳴ったのは、そんな何でもない1日の終わりを楽しんでいるときだった。

電話を受けた敦志の顔はうなずくたびに曇っていく。仕事でミスでもあったのだろうかと、真希は発泡酒を流し込みながら思案する。

中堅の印刷会社で働いている敦志は、ページの抜けや誤植が見つかると場合によっては休日でも関係なく呼び出され、修正作業に当たらされることがある。大手のお菓子メーカーで働き、大企業ならではの福利厚生や勤務体制を知っている真希としては、なんだか大変だなぁと思ってはいるものの、特に口を出したりはしなかった。

電話を終えた敦志が深くため息を吐く。

「大丈夫? 仕事の電話?」

真希の問いかけに、敦志は首を横に振った。

「いや、病院から。母さんが倒れたって」

「えっ?」

想定外の答えに、真希は思わず目を見開く。敦志はもう一度首を横に振っていた。

「あ、いや、そんな大事じゃなくて、家で転んだだけなんだけど、救急車呼んだらしくって。取りあえず今晩は念のため入院して、明日検査して様子見てすぐに退院だって」

「なんだぁ、よかった」

軽い調子で言った敦志に、真希も胸をなでおろす。

「うん、取りあえず明日、様子見に行ってくるよ」

真希はシャインクッキーを頰張った。昔と変わらない味に、思わず頰が緩んでいた。