耳を疑うようなうわさ

その日、敦志は急ぎの仕事が入ってしまい、真希1人で義実家を訪れることになった。敦志は無理しなくていいと言ってくれたが、吉江も困っているだろうと思い、決して感謝されることのない介護へ向かった。

近くのパーキングエリアに車を止め、義実家へ向かう。家から数軒と離れない道路の脇で年配の主婦らしき女性が数人、話をしているのが目に入る。

「また来てたわよ、伊藤さんとこのお嫁さん」

そのまま通り過ぎようとした真希の耳に、聞こえた言葉が引っ掛かる。

「あぁ、なんか最近見かけるわよね。キャバクラで働いてるっていう人でしょう?」

「伊藤さんもかわいそうよね。大事な1人息子がキャバ嬢に引っかかるなんてねぇ」

「あら、そんなこと言っちゃ職業差別になるわよ。コンプライアンスだなんだって最近はうるさいんだから」

「……あの、どういうことですか?」

真希は我慢できずに声をかけていた。井戸端会議を聞かれてしまったと理解した主婦たちの顔は引きつっていた。

「どういうことですか? 私がキャバクラで働いてるってなってるんですか?」

「え、そ、そうでしょ? だって伊藤さんがそう言ってたんだから……ねぇ?」

「そうよねぇ。伊藤さんがおっしゃってたんだもの」

「へぇ、お義母(かあ)さんが……」

真希はそれだけ口にすると、義実家へと急いだ。背中越しに、どうしましょう、聞かれちゃったわ、怖いわねぇ、と救いようのない会話を再開する声が聞こえていた。

●根も葉もない噂を流したのは義母だった……。その真意は? 後編「息子より稼ぎがいいからって…」バリキャリ嫁とモンスター義母の距離を縮めた“意外”なモノ】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。