当たり前ではない幸せ

あれから3年の時が過ぎていた。莉乃とは離婚が成立し、今では養育費を払う関係が続いている。借金はすでに完済していた。莉乃との離婚後、仕事にまい進した佑典は大きく出世をして給与が上がったのだ。それにより借金はなくなり、今は養育費だけに集中することができていた。

仕事前にいつものように鏡の前で身だしなみを整える。すると鏡越しに早紀と目が合った。思わず笑みがこぼれた。

「今日は遅くなる?」

「いや、定時で帰ってくるよ」

早紀はうれしそうにうなずいた。

早紀とは1年前に出会い、今、こうして一緒に暮らしている。もちろん、佑典の事情は知っている。早紀には2歳の娘、真理がいて、その子とも生活を共にしている。家族3人での生活は何もかもが楽しい。こんな幸せを自分が得られるとは思っていなかった。

「じゃあ行ってくるよ」

佑典は笑顔で家を出る。

お互いのことを尊重し合えて、なんでも話せる関係が早紀とは築けていた。しかしこれが当たり前ではないことを佑典は身をもって知っている。

こんな幸せを感じさせてくれている早紀たちに感謝しながら、家族を幸せにするために、佑典は身を引き締めて仕事に向かった。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。