裕福な義実家には頼りたくなかった

特別なことだからと言われ、佑典も安請け合いした結果、式の費用は800万を超えた。ご祝儀などで返ってきたとはいえ、かなり足が出てしまった。それらの額を補うために佑典は妻に黙って消費者金融にお金を借り、こっそりと返済をし続けていたのだ。

もちろん、裕福な義実家に頼ろうかと考えたこともある。しかし、あのつわものたちと今後やり合っていくためには、こういうところで弱みを見せるわけにはいかないと思い、借金をすることにした。その判断が間違っていたとは思わない。顔も知らない康作という男のように、一生見下されることになるはずだ。それだけは避けられて良かったと思う。

しかし、唯一のミスは振り込みをし忘れていたこと。そして消費者金融が迅速に督促状を家に送りつけてきたことだった。だが、これはもう取り返しのつかないこと。考えてもしょうがない。とにかく、この状況をどうにかしないといけない。

佑典はそう気持ちを持ち直した。莉乃は借金があることを認めると、大声で俺のことをなじり倒した。そんな母の怒声に当然、宏太は泣き出す。それでも莉乃は佑典を責め続けた。隠していたことや借金があったことをとにかく怒っていた。

実家へ帰ってしまった妻

その怒りのまま、事前に呼び出しておいた義母の運転する車に乗って義実家に帰ってしまった。当然、宏太も一緒だ。誰もいなくなった部屋で佑典は何度か莉乃に電話をかけた。しかし莉乃は出てくれない。

仕方なく実家に電話をかける。出たのは義父の文夫だった。

「佑典くん、借金なんてして。何を考えているんだ?」

「お義父(とう)さん、本当に申し訳ありません。ただ、後ろめたいことではないんです。ですので、きちんと莉乃と話をさせてもらえませんか?」

佑典がそう訴えると、文夫はこちらに聞こえるようにため息をついた。

「佑典くん、借金なんて金のないバカがすることだ。うちの一族はね、金を貸すことはあっても金を借りたことなんて一度もなかったんだよ。それなのに、まさかだよ。キミはウチの家系に泥を塗るようなことをしたんだ」

佑典は話を聞きながら頭を抱える。ダメだ。こちらの事情を聞くつもりはないらしい。

「で、ですが、このままでは……」

「莉乃の気持ちを考えてくれ。あの子はキミに裏切られたんだよ。とにかく借金を返すまで莉乃は帰らないよ。電話しても無駄だから。返済が終わったらまた話をしようじゃないか」

そう言って電話は一方的に切れた。恐らく莉乃も同じ気持ちなのだろう。借金の額は300万。10年かけて返していく予定だった。まさか、10年間もそっちで暮らすつもりか。

「……そんなんで夫婦なんて言えるかよ」