良樹さんが取るべきだった行動は?
さて、良樹さんは遺言書を見つけた時にどう行動すべきだったのだろうか。良樹さんはどうすれば兄弟たちの特別受益の存在を踏まえ、公平に遺産を相続することができたのだろうか。
答えは簡単である。特別受益の存在と遺留分を主張するのである。たしかに遺産相続は原則として遺言書に記載されている内容で行われる。
しかし、相続分には遺留分という遺言書によっても奪えない最低限の相続分がある。遺留分とは最低限の相続分のことだ。遺留分は亡くなった子が相続人となる場合は子全体で2分の1、そこに各相続人の法定相続分(法律で定められた相続分)をかけて算出される。
今回の事例でいえば良樹さんは最低でも特別受益を含めた額の6分の1が相続できたわけだ。それが遺言書を隠匿したことで0になった。
6分の1というと小さいと思われるかもしれないが、特別受益の額と今ある財産の額によってはそれなりの額になることもある。そもそもだが遺言書を破棄しなければ今ある財産を兄弟で均等に分けることになるため良樹さんも一定の財産を得られた。
なお、相続権とは別問題とはなるが2点補足する。遺言書は私文書だ。それを破棄することは刑法上の罪、「私用文書毀棄罪」に該当する可能性がある。同罪は5年以下の懲役となる罪が科される可能性のある刑法上の犯罪行為だ。また、検認(家庭裁判所にて遺言の確認を受ける作業)を受ける前に遺言書を開封すると、10万円以下の過料を科される可能性もあるため注意されたい。
いずれにせよ良樹さんのとるべき行動は遺言書を隠したり捨てるのではなかったということだ。
遺言書の内容は1人で見るべきではない
良樹さんの行動から我々が知ることができるのは「遺言書の内容は1人で見るべきではない」ということだ。
もし良樹さんが兄弟全員そろった場で内容を確認できていればこうはならなかっただろう。遺言書を隠したり捨てたりせず、その内容を不満に思いながらも受け入れていたら、一定の財産は得られたはずだ。
遺言書は予期しないタイミングで見つけてしまうと、気になって開けたくなることもあるかもしれない。それも1人で見つけたとあればなおさらだ。しかし、そうなった時こそ一呼吸おいて思い出して欲しい。一時の気持ちに身を任せての行動は自身を相続欠落の状態に追い込み、身を滅ぼすことがあるということを。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※登場人物はすべて仮名です。