<前編のあらすじ>

良樹さんは進学を機に上京し、地元には2人の兄弟(直樹さんと正樹さん)と年老いた父親、隆さんがいた。家族仲は良好で長期休みには必ず帰省をしていた。

隆さんが亡くなった年。5月のGWに3人兄弟で集まり実家の掃除をしていた。良樹さんが仏壇の整理をしていたところ、棚の奥から謎の封筒を発見する。

好奇心から封筒を開けて中身を見てしまった良樹さん。封筒に入っていたのはなんと隆さんの遺言書だった。内容を読んで納得できなかった良樹さんは、兄弟に隠れてこっそりと遺言書をゴミ袋に捨てる。しかし、その事件は翌日に発覚してしまった。

●前編:【「今ならバレない」父親の遺した“謎の封筒”を開封…中を見た息子が起こした「あり得ない事件」

良樹さんは相続権を失う

「残念ですが良樹さんには相続権がありません、財産を1円たりとも相続させることはできません」

私は3兄弟に向かって事実を告げる。

良樹さんのように遺言書を捨てる行為は「遺言書の破棄」に当たるからだ。遺言書を破棄する行為は相続欠落の要件となる。相続欠落とは、いわば相続人となる権利を失うことで相続人にはなれないわけだ。つまり、隆さんの相続人は直樹さんと正樹さんの2名になり、良樹さんは財産を相続できないことになる。

ただ、良樹さんも一枚岩ではない。直樹さんと正樹さんがこれまで生前受けた多額の支援と相続の内容とでは公平さに欠けると熱弁する。

だが、それとこれとは話が別だ。直樹さんや正樹さんが受けてきた支援は特別受益に該当する。特別受益とは各相続人が亡くなった方から生前に受けてきた支援などが該当する。まさに良樹さん以外の兄弟が受けてきた支援はこの特別受益に該当するのだ。

特別受益があるからと相続欠落に該当する遺言書の破棄が許されるわけではない。私は遺言執行者として直樹さんと正樹さんを相続人として遺言書の内容を実現させていった。