世の中には兄弟姉妹の中に“素行の悪い者”がいて散々迷惑を被ったという家庭もあるだろう。そしてその場合、亡くなった方含め家族全員がその者に相続財産を相続させたくないと考えることには一定の理解ができる。時にはそうすることが正解となることもあるかもしれない。だが、それが法的に許されるかどうかは別問題だ。
今回紹介するのは、素行の悪かった長男に財産を相続させたくなかった町田さん一家の末路である。
父の最期の言葉に従った兄弟たち
「竜也には相続させるな」
そう遺言を残し亡くなったのは兄弟たちの父親である町田秀夫さん。彼のいう竜也さんとは町田さん一家の長男だ。竜也さんは長男で溺愛されて育った分、歳を重ねるごとにわんぱくさを増していき、思春期を迎えるころには非行に走るなどして秀夫さんだけでなく家族全員が手を焼いていた。
竜也さんは度々問題を起こし地域からも浮いており、成人した現在は他県にて一人暮らし。今ではほとんど実家に帰ってこない。最後に帰省をしたのは数年前だという。
「竜也には相続させるな」という秀夫さんの言葉は、素行不良である長男ではなく、最後まで自分をみとってくれた子たちにこそ財産を残してあげたいという気持ちが言葉になったものだった。
そして、長女の郁美さんと次男の健太郎さん、そして三男の直次さん3人の兄弟姉妹たちは父の気持ちをくみ、竜也さんに遺産分割の事実を伝えることはしなかった。そして“長年迷惑を被った仕返し”とばかりに3人だけで遺産を分け合った。
「俺たちでおやじの財産は均等に分配しよう、兄貴には悪いがこれも報いだ」
健太郎さんの言葉を合図にするかのように兄弟姉妹3人は「3人で遺産を均等に分け合い、竜也さんは自ら財産の相続を辞退した」という内容での遺産分割協議書の作成を私に依頼してきた。