あたらしい地図
夏織と徹は別れた。幸せだった日々の結末は、ともすれば子供じみた理由であっけなく終わった。
けれど夏織に後悔はなかった。ゲームやオフ会。同じような趣味を持つ人たちとのコミュニティーのなかで、楽しい生活を謳歌(おうか)している。
あれから2年、今日は待望の新作『ファイナルフィクションⅦ』の発売日だ。
有給を使って会社を休み、予約していたゲームショップでソフトを買った。家に帰るや早速封を開け、ログインしてキャラクターメイクをする。ハンドルネームは〈ザンテツ〉。もちろん筋骨隆々の男性で、両手剣の使い手だ。
チュートリアルをこなし、オンラインゲーム仲間たちと待ち合わせをしている街の広場へと向かう。
初期装備の貧相なワンピースを着ている魔導士キャラとすれ違う。頭の上のハンドルネームには〈ヴィオレット〉と表示されている。
「まさかね」
夏織はつぶやいて、ザンテツを広場まで走らせた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。