<前編のあらすじ>
夏織(36歳)と徹(38歳)は人気オンラインゲーム「ファイナル・フィクションズⅣ」のオフラインイベントで知り合って結婚した。しかし結婚から間もなく徹が部署異動により残業続きになってしまう。収入は上がったが、一緒にゲームもできず、夫婦の時間が取れない徹に不満を募らせていた。そんな折、残業で遅く帰ってきた徹は夏織に「夜更かししてゲームなんてしていい身分だ」と暴言を放ってしまう……。
●前編:「夫が知らない人に見えた…」現実世界でも結婚したゲーマーカップルの夫が妻に放った「言ってはならない言葉」
クリティカルダメージ
夏織は何かを言わなきゃいけないと思った。けれど巻きついた針金は夏織の身体のなかにまで入り込んで、心臓や肺を鋭く締め付けた。
「早く寝たほうがいいんじゃない? ゲームしてるくらいならさ。寝ぼけた頭で仕事されたんじゃ、一緒に働く人たちもたまんないでしょ」
「……わたしはダメだね」
夏織はようやく吐き出した。締め付けられた身体の肌が裂け、血がこぼれるように、言葉があふれた。
「徹は立派だね。ちゃんと責任感もって働いて。でもそれって何のため? 徹はわたしのためだって言うけど、違うよね? わたし1度だってそんなこと言った? たくさん稼いで楽な生活させてよなんて言った? 言ってない、言ってないんだよ」
「なになに? なんで逆ギレ? 俺は夏織のためを思って――」
「だからそれが違うって言ってるの!」
夏織は思わず声を荒らげた。
静まり返った2人のあいだに、徹のため息が長く響いた。
「怒鳴るなよ。こっちは仕事で疲れてるんだから。遊んでる夏織とは違うんだよ」
ゲーム部屋の扉が閉められて、徹は出て行った。
やがてかすかに聞こえてきた流れるシャワーの水音は、堪えきれなかった夏織のすすり泣きをかき消してはくれなかった。