同じくらい「推し」だからね

ライブ会場を出た2人は、駅まで続く長い行列のなかをまだどこか夢心地で歩いていた。

しかし会場でため込んだ熱は、冬の空気のなかで少しずつ冷えていき、2人の気持ちを現実へと引き戻していく。

「あーあ、これでしばらくは推し活はお休みかぁ」

夏織がつぶやいた言葉に、百合子は思わず立ち止まる。

「え、何で?」

「もう完全に受験モードに入るからさ。合格するまでは勉強一筋ってお母さんと約束して、今日のライブは許してもらったんだ」

横で話す夏織の顔は寂しさと受験への不安が入り交じっていた。

百合子はサイリウムカラーをショウタの色にして、横に振る。周りを歩いていたラビッツたちが何事かと振り返る。

「何よ、何してんの?」

「私にとってはホクトと同じくらい夏織のことも推しだからね。応援してるよ」

百合子がそう言うと、夏織ははにかんでうつむく。

「何それ、すっかりオタクじゃん」

百合子にとって退屈なだけの生活に楽しみを与えてくれたのは紛れもなく夏織だった。

百合子はまた、仕事帰りには神社でお参りに行こうと決める。

もちろん、願いは夏織の合格だ。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。