「あなたにその責任が取れるの?」子供をしかり続ける母親

夕方、お迎えに来た涼香に弥生は事情を説明する。

「えっ、亮が……」

「そうなんです。でもすぐに仲直りをしたので、問題はないと思うのですが」

「相手の子のけがはどうなんですか?」

「かすり傷だったので、跡が残るようなことはありませんよ」

弥生が説明を終えると、涼香は膝を折り、亮の両腕をつかむ。

「ねえ、どうしてそんなことをしたの? 相手の子がそれで大けがをしたらどうするの? あなたにその責任が取れるの?」

涼香のけんまくに亮は泣き出してしまった。それでも涼香はしかるのを止めようとはしない。

「今がどういう時期かあんた、分かってるでしょ? そんなことでどうするの? 私がお父さんに言わないといけないんだよ? そうなるとお母さんが怒られるんだよ? それ、分かってるわよね? だったら、何でこんなことをするのよ?」

弥生は思わず、涼香を止める。

「お、お母さん、相手の子もお母さんも気にしてないようですので、そんなにしかってあげないでください。亮くんだって、反省してますから……」

「こういうのはちゃんと言わないとダメなんです! 口を出さないでください!」

亮は泣きながら大声で謝ってきた。そんな様子を見るだけで、胸が痛くなる。

涼香は泣いている亮を引っ張って、帰って行った。2人の背中を見て、弥生は不安を募らせた。

子供たち全員を見送った後、弥生が教室の掃除をしていると、美和子が話しかけてくる。

「なんか、大変でしたね。亮くんママ」

「そうですね。あんな怒り方をすると、亮くんを追い詰めちゃうだけなのに……」

「まあ、でもあそこの家もいろいろあるんだと思いますよ」

「何か複雑な家庭なんですか?」

「というか、エリート家系なんですよ。亮くんのお父さんもおじいさんもお医者さまなんですって。だから、やっぱり亮くんもその期待を背負っているんだと思いますよ」

弥生はその説明を聞き、何となく事情を察した。

「この時期がどうって、亮くんママが言ってましたけど、あれってお受験のことなんでしょうか……」

「そうですよね。何か塾に通わせて、毎日、勉強をさせてるみたいって話を聞きましたよ」

美和子は大きくため息をついた。

「それぞれの家にはそれぞれの事情があるから、こっちから突っ込んで何かを言うことなんてできませんしね~」

「そうですね。それは確かにそうなんですけど……」

弥生は歯がゆい気持ちを抱えながらも、亮のことを注視しておこうと決めた。

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※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。