言葉を失う関係者たち

ドアを開けて最初に目に入ったのは、170cmほどの「ごみの壁」。しかも、それは鼻にこびりつくような強烈な悪臭を放っていました。

室内が見えないので、何とか天井との隙間を探して中をのぞいてみると、部屋中にビニール袋に入ったごみや、お酒の空き缶が散乱していました。まさに「ごみ屋敷」そのものだったのです。

関係者と一緒にごみをかきわけ入室しますが、在宅をお願いしていたはずの山下さんの姿は見あたりません。部屋を見渡していると、テーブルに失業認定書や消費者金融からの請求書が置いてありました。おそらく、離職をきっかけに家賃滞納が始まったのでしょう。

その後はごみと格闘しながら一通り部屋を確認し、作業を終えました。山下さんが帰宅して連絡してくれることを期待して、公示書(断行日の記された裁判所の書面)と催告書(債務者宛ての裁判所執行官の書面)を玄関内に貼りつけました。

山下さんからの電話

催告から数日たったある日、山下さんから電話が入りました。

「あ、あの。山下洋子です。この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません」

電話口から、彼女が異様なほど動揺している様子が伝わってきます。

「すぐに滞納家賃全額はお支払いできませんが、分割で何とかお支払いしますので、何とかなりませんか? 実は会社が業績不振に陥って、家賃の支払いが滞ってしまったんです。今はアルバイトを2つしていますし、何とか住み続けられないでしょうか?」

しかし、どんなに頼まれても裁判所からの判決は覆すことはできません。

「残念ですが、裁判所から建物明渡の判決が出ています。会社として判決を無効にはできないので、速やかに建物の明け渡しと、残置物の処分を行ってください。賃貸住宅なので、居住権とお金の交換を毎月行っています。その交換を3カ月以上、不履行となると明け渡していただく『契約』なのです。新たな住まいを探してください」

心苦しくもそう伝えると、彼女は片づけ費用や転居の敷金を捻出できないと嘆きながら、家賃滞納に至った経緯を話し始めました。