救助ヘリコプターで病院へ
そして、なんとか生きて朝を迎えることができた。東からのぼってきた太陽が森の中で震えている小島を優しく照らしてくれた。太陽に照らされていると、心なしか身体が暖まってくるような気がした。
しばらくすると、ヘリコプターの音が聞こえた。上空を見上げると、それは間違いなく救助のヘリコプターだった。
「おーい! ここだあ!」
どんなに大声を上げてもヘリの音でかき消されてしまうのは分かっていたが、声をあげずにはいられなかった。大声をあげながら、小島は両手を大きく振って自らの存在をアピールした。
ヘリは小島に気づいてくれたようだった。そして、ヘリからロープが垂らされ、救助隊員が小島のところまで降りてきた。
「大丈夫ですか!」
小島は救助隊員に対してなにか言おうとしたが、言葉が出てこなかった。大声を上げて両手を振ったことで体力を完全に使い果たしてしまい、今の小島には言葉を発するだけの力も残されていなかった。しかし、小島は助かったのだった。
ヘリで病院まで運ばれた小島はすぐに適切な治療を受けることができた。幸いにも手の指先に軽い凍傷を負っているだけだった。念のためにその日だけは入院し、翌日に退院となった。
なんと救助費用が自己負担に…
小島はすっかり安心しきっていた。凍傷で手や足の指を切断する事態も予想していたが、それは避けることができた。医者からは「装備が十分だったから助かりましたね」と言われた。やはり、学生時代にスキーをしていた自分は違う。もしも半端なスキーヤーだったら、ほぼ無傷に近い状態で生還することはできなかっただろう。
三上からメールが届いていた。
「無事に救助されたと聞いて安心しています。バックカントリーを勧めた私たちにも責任があると思っています。また元気な顔を見せてください」
遭難したのは大恥だが、こうして三上からメールをもらえたのは救いだった。会社からは数日間は出社せずに休養するよう言われている。やることもないし、会社に戻った時の遭難の言い訳でも考えておくか。
そんな風に気楽に考えていた小島だったが、自宅に届いた請求書を見て一気に青ざめた。小島の救助のために100万円以上の費用が発生しており、その支払い責任は小島にあるというのだった。
小島を救助してくれたのは警察か消防のヘリだと思っていたが、民間の山岳救助隊のものだった。ヘリ以外にも小島の捜索のためにかなりの人員を動員しており、救助費用が高額になってしまった。
請求書を手にしたまま、小島は自宅の床に座り込んでしまった。この金額を支払うには定期預金を解約しなくてはいけない。まさか、自分がこんな目に遭うなんて思ってもみなかった。
かつて先輩に言われた「雪山をなめるなよ」という言葉が小島の脳内でむなしく響き渡っていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。