長いあいだ独身を貫いていた芸能人が結婚したというニュースがテレビで流れている。そのニュースを見た瞬間にいやな予感がしてリビングから出ようとしたのだが、少し遅かった。
「辰巳はいつになったら結婚できるのかねえ」
「本人にその気がないようじゃ、いつまでたっても独身だろう」
当の息子が同じリビングにいるというのに、両親は遠慮なく愚痴を言い合う。
「うるさいなあ。俺だっていろいろあるんだよ」
この両親になにを言っても無駄だということは分かっている。しかし、両親が結婚についてうるさく言いたがる気持ちも分かる。
大原は県内の中堅大学を卒業し、そこからはずっと地元の食品メーカーで経理の仕事をしていて昔からあまり女性に縁がなかった。
はじめて彼女ができたのは大学を卒業した次の年だった。
しかし、3カ月もしないうちに振られてしまった。それ以降、ずっと彼女がいない。
人生トータルで付き合った女性の数はひとり、交際期間はたったの3カ月だ。
大学生のころは『働いてお金を稼げばモテるようになる』と考えていた。しかし、大原が働いている食品メーカーは薄給で、モテるどころかいまだに一人暮らしもできない。
親と同居を続ける「子ども部屋おじさん」になっていた。
『そのうち良い相手が見つかるだろう』とのんきに構えていたが、それが良くなかったようだ。
人生初の彼女と別れてからずっと新しい彼女ができておらず、大原はもう40歳になっていた。いわゆる婚活というものもやってみたが、なかなかうまくいかなかった。
結婚しない息子にたいする両親の愚痴を聞きたくなくて、大原は自分の部屋に戻った。