<前編のあらすじ>
小島武広(44歳)は、会社の福利厚生で毎年開催される1泊2日のスキー旅行に初めて参加した。学生時代にスキーが得意だった小島は、好意を寄せている後輩の三上早苗(32歳)の前で格好をつけようと、バックカントリー(スキー用に整備されていないエリア)へと1人で入っていってしまったが……。
●前編:「雪山をなめるなよ」社員旅行で遭難…アラフォー男が危険な場所へ自ら入った“イタすぎる”理由
スノーモンスター
夢中になっていたせいか、天候が変わっているのに気づくのが遅れた。
『これ、やばいんじゃないか』
と思った時には、小島は強い風と雪に視界をふさがれていた。「ホワイトアウト」というやつだ。どこに何があるのか全く分からない。いったい、自分はいまバックカントリーのどのあたりにいるのだろうか。
ホワイトアウトの状態でその場から動いたのが良くなかった。視界が晴れてきた頃には、小島は森に迷い込んでいた。樹木は雪や氷を身にまとい、まるで怪物のような姿になっている。
いわゆるスノーモンスターというやつだ。今の小島にとって、怪物のような樹木の姿はなにか良くないことが起こる予兆のようにしか思えなかった。スノーモンスターに囲まれた小島はなんとか自力で元の場所に戻ろうとしたが、自分が今どこにいるのか全く分からなかった。
さまよっていたのは短時間だと思っていたが、かなり森の奥深くにまで入ってしまったようだ。スマートフォンを取り出してみたが、予想通り圏外だった。これでは救助を呼ぶこともできない。これ以上動くのは危険だと判断し、小島はそこでじっとしている事にした。
幸いにもオレンジ色の派手なスキーウエアを身に着けているから、比較的発見されやすいだろう。おやつに食べようとチョコレートも持ってきているし、なんとか翌朝まで耐えることができそうだ。