「兄弟に契約書とかいらないでしょ」弟の気遣い
お金の貸し借りに至ったきっかけはよくあるものだ。兄の優さんにおいて勤務先が業績不振に陥り収入減。やむを得ず弟の健斗さんへ相談したという流れになる。
「契約書もしっかり作る。必ず返すから、100万円を貸してくれないか?」
健斗さんは優さんからこのように頭を下げられたという。優さんは子どもが私立の学校に通っているなどの事情もあり、生活に行き詰まっていたようだ。
健斗さんは優さんが悩んでいることに気付いていた。仲のいい兄弟だから当然と言えば当然かもしれない。ただ、兄が弟からお金を借りるというのは、男としてプライドの問題もある。幼いころから兄として健斗さんを引っ張ってきた優さんのような人なら、なおさらだろう。
だがしかし、背に腹は代えられない。彼も恥を忍んで弟を頼った。その優さんの気持ちを健斗さんはひしひしと感じていたようだ。「『恥ずかしい兄ですまない』。そう言って頭を下げる兄の姿が脳裏にこびり付いている」と、健斗さんは複雑そうな顔で私に語った。
その時、落ち込む優さんを気遣い、健斗さんは本当は契約書を作るべきだろうと思いつつ、「俺ら兄弟に契約書とかいらないでしょ!」と、明るく言ってのけた。兄に元気を出してほしかったからだ。
優さんはそれに対して、「分かった。じゃあ毎月3万円ずつ返していくよ」と返事をした。健斗さんはそれに対して、「無理しないでいいから。余裕がある時にでも返してよ」と返したという。そうして、健斗さんは優さんへ100万円を貸すこととなった。
「思えばこれが最大の間違いだったのかもしれない……」
弟の健斗さんは当時を振り返りながら私にそう語った。
●兄を元気づけようと、契約書を作らずお金を貸した健斗さん。しかし、これが後の大きなトラブルを引き起こしてしまいます。後編【25年の絆が“100万円”で崩壊…弟にお金を返さない兄が発した「信じられない言葉」】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。