デジタル化が進む昨今、手書きでものを書くことが減ってきた。それにより遺言書もパソコンやスマホで作成して印刷できないかと考える方が増えてきている。今回は自筆証書遺言を手書きで作成しなかった松井さんの末路を紹介しよう。
松井さんが遺言書作成を決めた理由
今回の依頼主は当時70代であった松井さんだ。彼には2人の子がいる。ともに40代にある信人さんと裕美さんだ。信人さんと裕美さんの兄妹仲は非常に良好な関係にある。
だが「仲がいいだけに、将来起こるであろう相続の場で2人の仲が悪くなることはどうしても避けたいのです」と松井さんは語り、当事務所に来所された。
松井さんからは主には遺言書の作成について相談された。「信人と裕子の関係が良好であり続けられるように、遺言書を作成したい」と語った後に「とはいえ、信人には世話になっているので多めに財産を渡してあげたい」と続けた。
私は松井さんの状況であれば法律上定められた遺産分割の割合である法定相続分(各子どもが2分の1ずつの割合で相続)に準じながら、微調整をする内容にした方が無難であることなどを伝えた。
最終的には信人さん6、裕美さん4の割合での相続となる内容での素案が完成した。今回作成する遺言書は自筆証書遺言である。そのため、先の素案を基に松井さん自身が遺言書を“手書き”していくことになる。
「手書きは面倒ですが、手軽ならばそちらでお願いします! 費用もかからないのであればなおさらです」と、松井さんが自筆証書遺言を即断されたからだ。このように手軽さと価格面を重視して自筆証書遺言を選ぶ方は多い。
本来であれば一度完成した遺言書を当事務所にお持ちいただき確認をするところではあったが、当時はコロナ禍真っ最中。未曽有の事態に社会は大混乱。当事務所も松井さんも例外ではなかった。松井さんの希望から遺言書を手書きし、押印する行為は自宅で行っていただき、後日完成したものを見せていただく運びとなった。