自筆証書遺言で守るべき2つのこと
ここで自筆証書遺言について重要な事実を2点伝えておこう。
①自筆証書遺言は必ず手書きする
まず1点目として、自筆証書遺言は必ず日付や氏名、本文を手書きしなければならない。これらは形式的要件とされており、手書きせず印刷などで作成された自筆証書遺言は無効となってしまう。
②手書き以外で作成できるのは“財産目録”のみ
2点目に、実は自筆証書遺言は例外的に一部分だけ手書きでなくてもよい部分がある。それは財産目録だ。財産目録とはいわば相続財産の一覧のこと。「何の財産が何円あり……」といった内訳を記載していくものである。
ここはかねてから間違いなどが多い部分だ。それが相続争いの原因となることも珍しくなかった。それゆえ、この部分のみ手書きではなくパソコンなど手書き以外での作成方法が認められるようになった。
今回松井さんにおいて問題となったのはこの2点だ。財産目録という自筆証書遺言の一部が手書きでない方法での作成も認められたことで、文書全体も手書きでなくともよいと勘違いする人が出てきたのだ。
松井さんもその1人だ。財産目録は手書きでなくともよいという部分を「遺言書全体について」だと勘違いしてしまい、OAソフトで作成してしまったのだ。
近年ではOAソフトを使いこなせる高齢者も多い。松井さんも定年前はバリバリの管理職でよくOAソフトを使いこなしていたという。ただ、「わが子のために」と決意した遺言書作成で、このOAソフトを使いこなせるという強みが裏目に出てしまう。
●後に兄妹間の壮絶な相続争いに発展してしまった原因とは? 後編【「親の意向を無視するのか?」40代兄妹の泥沼相続…“無効の遺言書”が辿る残念な結末】で詳説します。
※登場人物の名前はすべて仮名です
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています