いざ、男性の息子と直接対決へ

それからおよそ1カ月後に行われた岩田さんと男性の息子さんの弁護士との面談には、私も立ち会いました。

理不尽な言いがかりに対し、岩田さんが1つひとつ証拠の書類を示しながら反論していく姿は、勧善懲悪の法廷ドラマを見ているようで痛快でした。相手の弁護士は息子さんの一方的な思い込みを聞かされているだけなので、何一つ言い返すことができません。

結果的に、伯母が男性のために購入した日用品や食品などの代金、施設に通った際の交通費に、長年の貢献への謝礼を加味した300万円の支払いを息子さんに求めることで合意しました。

その足で伯母のマンションに向かい、面談の結果を報告すると、伯母はほっとした表情を浮かべました。

「一生独り身だと覚悟していたので、藤原さん(男性)と過ごした10年間は人生の終盤に神様がくれたご褒美のようだった。こんなお別れになってしまったのは悲しいけれど、身の潔白を証明できたし、藤原さんからいただいた大切なプレゼントもお返しせずに済んで本当に良かった」

伯母はそして、岩田さんに何度も何度も「ありがとう」と繰り返しました。私も久しぶりに伯母の笑顔を見て、幸せな気持ちになりました。

事実婚だからこそ遺言が重要

伯母のマンションからの帰途、岩田さんからこんな話を聞かされました。相続法には「特別寄与」という概念があり、亡くなった人の生前、その財産の維持や増加に貢献した親族は、貢献度に応じた財産の支払いを相続人に請求する権利があるのだそうです。

しかし、事実婚だった伯母は親族と見なしてもらえません。

「藤原様が伯母様にある程度のお金を残したいのなら、“遺言”を残しておくべきでした。しかし、認知症になってしまって、それが叶わなかったのでしょうね」

岩田さんは伯母のように事実婚を選択する熟年カップルが増えていると指摘し、「そうした実情に合わせ、内縁関係のパートナーが亡くなった時には一定の財産が受け取れるような法律に変えていく必要があります。現場の自分たちも声を上げていかないといけないんです」と熱く語ってくれました。

後日岩田さんから請求された相談費用は、伯母が「これじゃあ、ボランティアじゃないの」とあきれるほどリーズナブルでした。

弁護士さんとは日常的にあまり接する機会がなかったのですが、伯母の件を通して身近にこんな“正義の味方”がいることを改めて認識した次第です。岩田さんには子供たちも含めて親族一同、末永くお世話になっていけたらと思っています。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。