500万円のマイナス!? 「回転売買」という落とし穴

証券会社と付き合いはじめてから3年ぐらい、そんな具合の「おまかせ状態」を放置していたのですが、あるとき愕然としました。たまたまヒマだったので、それまでろくに開きもしなかった「特定口座年間取引報告書」を見たのです。相続したお金のうち、証券会社の口座に入れたのは4000万円ほどでしたが、それが殖えたどころか500万円以上減っているではないですか!

吉岡さんに電話をかけて、どうなってるのかと質したら、「えらいすんません。ボクの力不足です」って、最初はしおらしい声を出しました。でも、すぐに開き直ったような言葉を連ね始めたのです。投資信託は運用報酬のほかに購入手数料もかかるから、最初のうちはマイナスで当たり前だとか、一歩先を読んで提案してるんだからもっと長い目で見てくださいとか。

むくむくと不信感が膨らんだ私の心に、何よりグサッと刺さったは次の一言でした。

「田所さん、ボク、最初に念を押しましたよね。投資は自己責任が大原則です、すっかりおまかせはあきませんよ、て」

ぐうの音も出ませんでした。言われてみればその通り。おそらくは計算ずくの軽薄な営業トークに乗せられて、ホイホイ「お勧め」に従ったのは私です。まず打ちのめされたのは、たぶん娘の将来を考えて母が蓄えてくれたお金を減らしてしまったことへの罪悪感。それにもまして「投資の大原則」を顧みもしなかった自分が、情けなくて情けなくて。吉岡さんの言葉を何度も思い返しては自分を責めたからでしょう、一時は眠れなくなるくらい落ち込みました。

少し立ち直ってからは、挽回しなきゃと思ってネットでいろいろ調べました。

げ! と思ったのは、「回転売買」という言葉を知ったときです。証券会社にしろ銀行にしろ、投資信託の販売会社は販売手数料を稼ぐために買い換えを勧めることがままあると言うんですね。

投資信託の販売手数料は、商品によるにしろ、多くの場合は投資元本の3%ほど。100万円買ったら3万円、1000万円なら30万円も、購入時に負担する必要があります。売りと買いをぐるぐる「回転」させてそのたびに手数料をせしめることで、証券会社は手っ取り早く儲けられるのです。それでも株式相場が右肩上がりなら、すぐにでもプラスのリターンが出ますけど、そうでなければ当面はマイナスなのが当たり前。会社の収益を増やすために、というより自分が点数を稼ぐために、吉岡さんがさかんに買い換えに誘導した背景には、そういう仕組みがあるのです。なんにせよ「ずっと独身てほんまですかー」とか言われて浮かれちゃって、買い換えのお勧めにホイホイ従ったあのときの自分を、ぶん殴りたくなりました。

●どん底の田所さんを救ったのは!? 後編へ続く