目覚めたのは見知らぬ場所
目を開けると、天井が近かった。
低い蛍光灯の光が白くにじみ、樹里はしばらく瞬きだけした。
頭が重い。口の中が乾いている。起き上がろうとして、すぐにやめた。胃が揺れて、喉の奥がむっとした。
「……ここ、どこ」
かすれた声は壁に吸われた。
狭い個室だ。薄いマット、毛布、机、リモコン。間仕切りの向こうは通路らしい。
二次会の店を出た後から記憶がない。服は着たまま。靴は個室の扉の下でそろっている。けれどスマホが――ない。財布も鍵もない。コートの内ポケットも何も出てこない。
「うそ……」
今まで、何をしていた。誰といた。
思い出そうとしても、誰かの笑い声が短く浮かぶだけで続きが切れる。
動転する気をどうにか落ち着けようと思って扉を少し開けると、廊下の先にドリンクバーが見えた。紙コップが積まれ、機械が並び、奥に本棚の影。なんとなく察しはついていたけれど、やはり漫画喫茶かどこからしい。
樹里はふらつく足で受付へ向かった。カウンターの中の店員が顔を上げる。
「すみません。財布とスマホがなくて。忘れ物、届いてませんか」
「少々お待ちください」
眠そうな顔の店員が引き出しを開け、透明の箱を覗く。樹里はカウンターの端に指をかけた。親に電話したいのに、番号はスマホにしか入っていない。
「今のところ、こちらには届いていませんね」
「……そうですか」
声が小さくなった。
目覚めると、現金、カード、鍵がまとめて消えていたという現実。ふらふらと個室に戻り、そこにあった毛布を握りしめると、身体の震えが止まらなくなった。
●成人式でちやほやされて有頂天になった樹里。二次会で記憶を失うほど飲み過ぎてしまい、目覚めた場所で財布もスマホもないことに気づくのだった…… 後編【成人式の二次会で酔いつぶれて消えたスマホと財布…絶望のさなかで気づいたちやほやされるより温かいもの】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
