樹里は店の入口で名札を受け取った瞬間、何人かの視線が集まるのを感じた。成人式の会場でも「雰囲気変わったね」と繰り返し言われたばかりだ。振袖を脱いでも、同じ反応が返ってくるのが嬉しい。

「山崎さん? うそ、式でもかわいかったけど、夜の方がさらに大人っぽい」

「ありがと。ドレスのおかげかな」

樹里は笑いながらグラスを受け取り、姿勢を正した。

大学に入ってからの約2年間、見た目を変えるためにやったことは数えきれない。バイトを増やして服を少しずつ買い直し、安いコスメで失敗しながら自分に合う色を探した。眉はサロンに通い、髪は毎朝練習して、寝不足で肌が荒れれば生活も直した。

もう高校時代までのように、地味だ、真面目だと決めつけられるのが嫌だった。最近は鏡を見るたびに落ち込む日が減り、写真に写る自分を見ても「まあいいか」と思える。

「やっぱり山崎さんって肌キレイだよね。メイクしないのもったいないって、高校のときから思ってたよ」

「あはは、もう高校時代は忘れてってば」

乾杯が始まり、樹里は呼ばれるたびに席を移った。高校の時は、こういう輪の中心に入ると何を言えばいいか分からなかった。でも今は自然に言葉が出る。

「式の写真、回ってきたよ。山崎さん、超盛れてる」

「え、私にも送ってー」

笑い声の向こうで、入口近くに武田睦月がいるのが見えた。

黒髪をひとつに結び、控えめな服装。

高校の放課後、よく一緒に時間をつぶした相手だ。目が合ったけれど、睦月は近づいてこようとはしなかった。

「山崎さーん! こっち座って!」

「写真撮ろ!」

樹里は名前を呼ばれて振り向き、手を上げた。

「いいよ、いいよ~」

高校当時はほとんど話したこともなかった1軍女子たちと並んで写真を撮ったあと、樹里は思い出したように睦月の姿を探す。けれどさっき立っていた場所にはもうおらず、睦月の姿は同窓会の盛り上がりのなかに埋もれてしまっていた。