明らかになった送金の事実

夕食後、千賀子は流しで食器を重ね、一定の手順で洗っていく。恵太はリビングの白い布を視界の端に置いたまま、引き出しから通帳を取り出した。これまで家計の実務は千賀子に任せてきた。「大きな変更があるなら言ってくれ」とだけ言って、恵太は普段は口を出さない。任せるのは信頼の証というより、時間の節約だった。

しかしページを追ううちに指が止まる。減っている。想定より、確実に。

「……千賀子」

水音が止まり、濡れた手を布巾で拭きながら千賀子が来た。慌てるでもなく、恵太の前の通帳を見る。

「この口座、残高が減ってるんだけど」

恵太が少し手前にずらすと、千賀子は小さく頷いた。

「ああ、それね。お布施を振り込んでるから」

摘要欄には「寄付」や「振込」といった文字が並ぶ。振込先の名義も聞いたことがない。リビングの白い布と器が、目の前の数字とつながった。

1回ごとの金額は大きくない。だが回数が多い。ざっと見た限り、1年以上にわたって1カ月に2回ほどの送金が続いている。

「理由は」

「こういうのは気持ちだから」

「……それで説明したつもりか」

千賀子は言い返さない。ただ、布巾の折り目を揃え、静かに言った。

「息抜きみたいなものよ。私にとっては」

恵太は通帳を閉じた。

紙の薄さが頼りない。自分の稼ぎが、自分の知らないうちに、自分以外の判断で動いている。その事実だけが腹の底に沈む。

「これは家の金だぞ。分かってるのか?」

背中に向かって言うと、千賀子は振り返らずに「うん、分かってるよ」と答え、また洗い物を再開した。

会話はそこで途切れ、台所の水音だけが続いた。

●2年半ぶりに帰国した恵太を待っていたのは、宗教にはまった妻と、冷たい態度の息子だった。口座からは定期的にお布施が振り込まれていた…… 後編【「母さんは今、幸せにやってる」夫の何気ない一言が妻を追い詰めた…息子が明かした“円満に見えた家庭”の真実】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。