変わり果てた食事内容

食卓には、湯気が立っていた。だが、食欲をそそる匂いはしない。

ほぼ無色透明の吸い物のような汁物に雑穀米、そして小皿に盛られた見慣れない山菜。

いや山菜、というより、路傍から摘んできた葉の寄せ集めに見えた。

久々の日本食に感じるはずの安堵が、座った瞬間に消える。

「久しぶりの日本食だ」

恵太が気を遣ってそう言うと、千賀子は「冷めるよ」とだけ返した。

大智は目を合わせないまま席に座り、黙って箸を取る。「いただきます」と汁物の椀を手に取り、ひと口すすったが、味が薄く、舌の上に残るのは、わずかな塩気と青臭い風味だけ。次に葉と茎を口に運ぶと、噛むたびに青い苦みがじわじわ広がった。

食べられないほどではない。だが「うまい」と言える種類の味でもなかった。噛んで飲み込む行為が、食事ではなく流れ作業のように思えてくる。

「何か飲むもんある?」

口直しに缶ビールでも出そうと冷蔵庫を開ける手が止まる。棚に並んでいるのは見慣れない瓶と乾物、透明な袋に入った茶色い粉。

肉の類はない。

当然のようにビールも存在しなかった。

扉を閉める音が、妙に大きく響いた。

「なあ……いつから、こういう食事なんだ」

「うん? こういうって?」

「だから、こういう精進料理みたいなの」

千賀子は椀をテーブルの上に戻しながら、困ったように眉を下げる。

「うーん、しばらく前かな。体にいいから」

説明はそれだけで終わった。

恵太は問い詰めたくなる衝動を、いったん飲み込む。

「明日、俺が買い物に行ってくる。肉も魚も必要だろ。要るものをリストアップしといてくれ」

千賀子は「うん」とも「いや」とも言わず、ただ黙って椀を持ち上げた。湯気の向こうに見える妻の顔が、なぜか知らない女に見える。

「大智はどうだ? 明日、何が食べたい?」

「別に」

「別に、ってお前……」

「ごちそうさま」

大智はさっと席を立って食器をシンクに運び、2階の自室へと駆け上がっていった。恵太はその足音を聞きながら椅子に座り直し、冷めた椀の汁を胃に流し込んだ。