変わりつつある関係性

秋晴れの午後、晴美は高田宅の前に車を停めた。

今日の配達は、時間指定ではない。午前の混雑を過ぎ、いくつかの家を回ってからの訪問だった。到着してインターホンを押すと、ゆっくりと扉が開いた。

高田は、静かにそこに立っていた。母親はまだ入院中らしいが、どこか憑き物が落ちたような顔をしている。

「……ご苦労さん」

そうとだけ言うと、荷物を受け取り、すぐにサインを終えた。晴美は「どうぞお大事に」とだけ返し、軽く会釈をする。高田もまた、黙って小さく頭を下げた。

玄関は、相変わらず整っていた。靴も傘も以前と同じように並んでいたが、不思議と圧は感じなかった。

車に戻り、配達アプリの画面を確認する。あれから高田が会社宛に感謝の手紙を送ってくれたらしく、契約解除だけは免れたが、特に待遇には反映されていない。

「世の中、そんなもんだよね。うん……」

晴美は深く息を吸い込んでから、次の配達先を表示した。画面の地図が切り替わり、新しいピンが点灯する。ハンドルを握る指先に力を込めると、晴美は静かにアクセルを踏んだ。

車が滑るように発進し、午後の陽が差す道を進む。ミラーに映る高田宅の玄関が、ゆっくりと遠ざかっていく。前よりも軽くなった空気が、車内に差し込む陽射しとともに、頬を撫でた。

道路沿いの街路樹が連なり、枝葉が風に揺れている。その影がフロントガラスに揺らめき、一定のリズムで通り過ぎていく。

晴美はもう一度だけ、深く息を吸った。アプリの画面が、新しい目的地を淡く点灯させていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。