<前編のあらすじ>

父の介護で離職し、看取った後も希望する仕事には就けず、出来高制の配達業で生計を立てていた晴美は、時間指定に異常なまでにこだわる顧客・高田からのクレームに悩まされていた。

ある日、いつものように叱責されている際に、置き配サービスを提案しても「楽をするな」と拒否され、孤独な配達業務を続けていた。

晴美は会社に高田の担当変更を願い出たが、「代わりはいくらでもいる」と冷たく突き放され、契約解除の危機に怯えながら、さらに追い詰められていく。

●【前編】これってカスハラ?わずかな遅延も許されない苦悩…クレーマー客の担当を外してもらえず、出来高制の配達員が抱えた絶望

いつもと違う高田の様子

前日の台風で町全体がざわついていた。

倒木や冠水で交通は乱れ、どの道も渋滞している。配達アプリの画面には赤いラインがいくつも走り、またもや「遅延注意」の通知が出ていた。

しかし、晴美は指先でその通知を閉じ、ハンドルを切った。効率を考えれば、どうしても高田宅は後回しになってしまう。また怒鳴られるのだろうが、仕方がない。

「はあ……」

大半の配達を終えて高田宅に到着したとき、雨は上がっていた。

玄関前に軽くなった車を停める。だが今日は、インターホンを押してもすぐに返事はなかった。間を空けてもう一度押すと、ようやくゆっくりと扉が開いた。

高田の姿が見えたが、いつもより背筋が丸く、顔色も冴えなかった。疲れているように見える。

「…ああ、やっと来たか」

いつもの怒鳴り声ではなかった。それだけで、晴美の動きがわずかに止まる。

「遅くなり申し訳ございません。受け取りのサインをお願いします」

荷物を差し出すと、高田はそれを受け取りながらぶつぶつ文句を言った。

「まったく……こうも毎回遅れられると、まともに予定も立てられないじゃないか……だいたいあんたは……」

そのとき奥から、何かが床に落ちる音が聞こえた。高田が後ろを振り返り、はっとした表情で中へ駆け戻った。

「母さん……!」