時刻は19時を回っていた。佳寿子は手早く焼いた餃子を大皿に載せてテーブルに置くと、部屋にいる佑輔を呼んだ。

佑輔は好物の餃子にもあまり反応を示さずに椅子に座る。

仕事が忙しく帰宅がいつも遅いため、夕飯も必然的に遅くなる。父親がいてくれたら料理を頼んだりできそうなものだが、残念ながら佳寿子は10年前に離婚をしていてそれ以来、女手一つで佑輔を育てていた。

息子のレギュラー入りを期待する佳寿子

佳寿子がどれだけ遅くなっても佑輔は特に文句も言わずに部屋で待ってくれている。野球部の練習でくたくたなはずだが不満を出さないでいてくれるのは助かる。その反面、感情をあまり出さないというところには不満というか心配があった。

ただ優しいだけで頼りなかった前の夫にどんどん顔が似てきて、性格まで似てしまうのではないかと心配になる。何事も主張をしないと気持ちは分からない。だから佳寿子はなるべく積極的に話しかけるように心がけていた。

「そう言えば野球部ってもう佑輔たちが最高学年になったんじゃない?」

「……うん、そうだね」

「それじゃようやくあなたの活躍を見られるようになるってわけね。お母さん、試合の日はできるだけ応援に行くようにするから」

佑輔は小学校からずっと野球を続け、高校でも県では中堅と呼ばれるレベルの野球部に入部をしていた。ただ今年は、佑輔よりも一学年上の世代は優秀な選手が揃っていて佑輔はベンチ入りすら叶わない状況だった。しかしその3年生たちも引退となり、ようやく佑輔の出番が回ってきた。

佳寿子は声を弾ませて話すが、佑輔の表情は浮かない。