弱気な発言に苛立ちを隠せない佳寿子

「……見に来なくていいよ。どうせ無駄だし」

「え……?」

そこで佑輔は箸を止めた。

「多分、次も俺はベンチにすら入れないと思うよ」

「ちょっと待ってよ……。どうしてそんなことを言うの?」

「1年にスゴいヤツが入って来たんだ。正直、今年の夏の予選だってベンチ入りするかもって言われてたくらいのヤツがね。正直俺とはモノが違う感じがしてて」

気弱な発言をする佑輔に佳寿子は苛立つ。

「だったらポジションを変えれば良いじゃない。あなた今はサードでしょ? 内野ならどこでも守れるんじゃないの?」

「そんなわけないだろ。各ポジションにもう、れっきとしたレギュラーがいるし、ベンチメンバーだって揃ってる状況だよ。今から俺が一からポジションを変えても割っては入れるわけがないよ」

佳寿子は否定的な言葉ばかり並べ立てる佑輔に鋭い視線を向ける。

「じゃあどうするの?」

「……野球選手を諦めるかどうかするしかないと思う」

佑輔の諦めの言葉に佳寿子はいっそう苛立った。

「どうして何もしてないのにそんなに諦めの言葉ばっかり出てくるの⁉ もう少し頑張ったらどうなのよ⁉」

佳寿子から怒られて佑輔は驚いた顔をする。

「い、いや諦めって言うか……」

「諦めじゃない! ちょっと追い込まれたくらいですぐに諦めるなんて情けないことをしないでよ!」

佳寿子はこの秋から人事異動で営業から総務部に異動になっていた。

新しい人間関係や慣れない仕事の中でも歯を食いしばって頑張っているのだから息子の佑輔にも同じくらいの根性を持ってほしかった。