家計と夫婦関係の見直しで再出発

玄関前、早希がベビーカーの持ち手を支え、隆太は説明書を片手にレインカバーを広げていた。風にふわりとあおられながらも、四隅のホックを1つずつ確認し、前面のジッパーを丁寧に閉める。

「こっち、もう少し下かな……あ、よし」

「留まった? 私ここ、支えてるから」

湊斗はすでにカバーの中で眠ってしまった。レインカバーの装着に苦戦している両親をよそに、安心しきった顔で。

「じゃあ、行こうか」

そのまま3人で、近所の商店街へ足を向けた。小雨が降り注ぐ午後の空気は冷たく、しかし澄んでいた。アスファルトの上に落ちた葉が、しっとりと色を濃くしている。八百屋では、旬のきのこが箱に山盛りになっていた。里芋も、少しだけ泥がついているのが逆に新鮮に見える。

「これ、今夜のお味噌汁にどう?」

「あ、うん……やってみる」

夕方、家のキッチンには、食欲をそそる香りが漂っていた。炊き込みご飯、鮭のホイル焼き、南瓜の煮物、そして里芋の味噌汁。

隆太が担当したのは「味噌汁」だけ。それでも、具材を切り、火を扱い、出汁をとり、味付けをする。いくつもの作業が必要だ。仕事とは別の意味で神経を使い、疲弊する時間だが、同時に隆太は新鮮さと手応えも感じていた。

「お味噌汁美味しいね。上手にできてる」

「本当? 良かった」

食後、2人で月末の収支を見直す時間をとった。

サブスクを解約して浮いた分は、1000円ちょっと。先日フリマアプリで売れた秋物のブラウスは、送料込みで3000円。

大きな変化ではない。しかし、確かに家計は改善していた。

「トレンドって、波みたいだよね。全部に乗らなくていい。これからは……3人で乗れる波を、ちゃんと選んでいきたい」

「うん。無理のないやつを、ね」

隆太は、その言葉の意味を反芻するように、うなずいた。窓の外では、すっかり雨が上がり、夜空には雲の隙間から星が覗いていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。