週2回の母娘の時間

桃子は仕事の合間を縫って、週に2度は実家へ通うようになった。定時で上がれた日はそのまま電車に乗り、最寄りのスーパーで食料品を適当に買って実家へ向かう。自然と母娘2人の時間が増えた。

「ただいま」

「桃子、おかえり。今日は随分早かったのね。仕事早く上がらせてもらったの?」

母は毎回エプロン姿で、桃子を出迎えてくれる。

「ううん、今日はたまたま定時で上がれたし、乗り換えもバッチリだったから」

「そう、それなら良かった。お腹空いてるでしょ? もうご飯炊けてるからね」

「ありがとう。お惣菜買ってきたから一緒に食べよう」

「いつも悪いね。毎回買ってこなくてもいいのに」

「私も食べるんだからいいんだよ」

「そう?」

パタパタとスリッパを鳴らして動き回る母の手には、やはり霧吹き。

いくら実家に足繁く通うようになったからと言って、問題がきれいさっぱり解決したわけではない。

最も重大なのは借金だ。催促状が届いていた分だけは、桃子が仕方なく肩代わりしたものの、借金自体はまだ残っている。

母曰くお布施の金額が減った分、返済ペースは上げられるとのことだが、桃子からするとかなり疑わしい。

一時期に比べると、数は減っているようだが、水に対するこだわりは続いているし、瓶は相変わらず家のあちこちにある。

「ねえ、お母さん。最近も集まりには行ってるの? みんなと会ってる?」

「ああ、それは月に1回にしたの。今は家で静かにする方が合ってる気がして」

「そっか。良いと思うよ。1人でゆっくりする時間も大事だからね」

母娘の間に流れる空気は、ほんの少しずつ柔らかくなっている気がする。桃子は、焦る気持ちを抑え、ひたすら母との対話を続けた。

「お布施も、前より少なくしてるしね。やっぱり無理しないで続けるのがいいと思って」

「うん、そうだね。あんまり無理すると、後でシワ寄せがくるからね」

母の言葉を否定せずに、まずは頷いてみせる。説得の熱量をいったん脇へ寄せ、肯定的に相槌を打っているうち、母は、話しながら時々目尻を緩めるようになった。

「桃子がそばにいてくれるからか、最近夜よく眠れるのよ」

そう言って、湯呑みに水を足す母。その言葉に、桃子は心がほどけるのを感じる。

夕食を終えると、どちらから誘うともなく2人で庭に出て、空を仰いだ。星は雲に隠れているし、隣家からテレビの音が低く響いている。

「お母さん、寒くない?」

「大丈夫。風、気持ちいい」

「そう」

「こうして外に出ると、少し落ち着くのよ。水やりもね、夜は音が違うの」

「どんな音?」

「柔らかい音。朝は、もっと跳ねる感じの」

「そっか」

沈黙が続いても、怖くない。

「来週も来るね」

「お米、炊いとく」

桃子がぽつりと言うと、母も空を仰いだまま応じる。その横顔は、以前より少しだけ生き生きとして見えた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。