水の大量購入に加え、お布施まで…
桃子が目覚めると、母は既に起きて庭に水を撒いていた。
ふらふらと台所へ向かい、何気なく視線をやると、棚の引き出しから何かがはみ出しているのに気づいた。引っ張り出してみると、白い封筒に赤い文字で「督促」とある。
差出人は、消費者金融。
さらに引き出しを探ると、別の会社からのものもあった。
桃子は息を止めた。掌が汗ばむ。封筒の束を持ち、つっかけを履いて庭先へ出る。
「お母さん、これ、何」
母が振り向き、手の霧吹きが小さく揺れた。
「見たの?」
「うん。たまたま見つけて……」
「……お布施よ」
「でも、お母さん……お布施、って、こんなにするものなの?」
「返して」
母は1歩近づき、封筒を抱え込むように取った。
「人の信心を覗かないで」
「覗くつもりはなかった。けど、金額が」
「金額の話しかしないのね、あなた」
母の声が硬くなる。
「これは私が自分のためにしたこと。借りてるのは私。返すのも私」
「でも、督促が来てる。返済が遅れてるって」
「たまたまよ。来月にはなんとかする。仕事も増やすし、節約だってする」
「それで足りなかったら?」
「足りるように祈るの。……それの何が悪いの」
桃子は言い返せない。悪いかどうかを決めたいのではない。怖いのだ、と気づく。母が金に追われる姿を想像すると、胃の底がきゅっと縮む。
「心配なんだよ、お母さん」
「心配いらないから、黙って見てて」
母は視線をそらし、白い封筒の皺を指で伸ばした。
●結婚の報告をしに実家を訪れた桃子だったが、父の死後、母が宗教団体にハマり多額のお布施をしていることが発覚。母の窮地を何とか救おうとするが…… 後編【「放っておいて!」否定すれば離れていく…“借金お布施”の母と向き合う娘の対話の行方】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。