裕子は岳人のお目付け役に
退院後も真面目にリハビリに通い続けた岳人は、2カ月もすると普通に歩けるくらいにまで回復した。もちろん自転車には乗っていない。ただ、リハビリの一環で始めた散歩にはまったらしく、今は休日の朝から近所の公園まで1時間のウォーキングをするようになっていた。
変わったのはそれだけではない。
自転車は岳人1人の趣味だったが、そのウォーキングは裕子も一緒にやっている。
目的地の公園に着き、岳人と裕子はベンチに座り休憩をする。汗を拭きながら岳人が言う。
「なあ、歩くだけじゃなくて今度はジョギングにしないか? それでさ二人でマラソンに挑戦とかどう?」
岳人の提案に裕子は冷たい表情で返す。
「また足を怪我したらどうするの? 激しい運動はまだダメだってお医者さんに言われたのもう忘れたの?」
裕子がそう言うと岳人はごめんとつぶやき背中を丸める。
岳人はすぐに調子に乗って無茶なことをするのは分かっていた。だからしばらくは自分がお目付役にならないといけないと思っている。岳人の健康を守るために自分がしっかりと手綱を引かなければと思いながら、裕子は内心でため息をついたが、それほど嫌な気持ちはしなかった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。