<前編のあらすじ>
夫の岳人は、自身の体型を気にし始め、学生時代に熱中したロードバイクに再び乗り始めたいと妻の裕子に相談。15万円を超える高価な自転車だったが、健康のためならと裕子は購入に賛成する。
しかし、裕子がサイクリングへの同行を断ると、岳人は「おまえは目の前の出費のことしか考えられない」と裕子を馬鹿にし、上から目線で批判する。
しだいに自転車に熱中する岳人は、週末は昔の仲間とサイクリングに出かけ、家のことをほったらかしにするようになった。そんなある休日、夫の友人から事故の知らせを聞いた裕子は、急いで病院へと車を走らせるのだった。
●【前編】「おまえは目の前の出費しか考えられない」妻を見下した夫が15万円のロードバイクで招いた突然の悲劇
友人・博から聞いた事故状況
病院に着くと同世代くらいの男が待っていてくれた。その人が博だと裕子はすぐに分かる。
「岳人はどうしてるんですか?」
「今、手術を受けています」
衝撃のあまり言葉が出なかった。博は矢継ぎ早に説明をした。
「右足の靱帯を切ってるということなので緊急の手術をしているそうです」
「い、命は大丈夫なんですよね?」
裕子の質問に博はしっかりと頷いた。
「はい、足を怪我しただけで意識とかはちゃんとありますから。それは大丈夫です」
「何があったのか教えて下さい」
裕子が詰め寄るように問いかけると、博は申し訳なさそうに口を開いた。
「良い感じの峠があったので、そこに行こうかって岳人となったんです。それで上り坂をどれくらいで登れるかって競い合ったんですよ。学生時代からこんなことをしてたので。それで帰るときに下り坂を下りようとなったんですけどアイツ、かなりスピードを出してて……」
博は何か言いたそうだったがそれを飲み込んだように見えた。
きっと博は危ないと言って止めたのだろうと思う。だが見栄っ張りの岳人はそれを聞かずに猛スピードで下りてしまったのだ。
「そしたらそのスピードのまま転んじゃって……。それで俺が救急車を呼んで……」
裕子は博に頭を下げた。
「本当にありがとうございました。おかげでウチの夫が助かりました」
「い、いえ、やめてください。俺が峠なんて行こうと言ったのが悪いんで」
博は恐縮して首を横に振った。
「博さん、これからは入院の手続きなんかもありますので。どうやら全身麻酔で手術が終わってもしばらくは目を覚まさないでしょうし、今日はもうお帰り下さい」
1度は残ると言ってくれた博だったが、できることはないと理解したのか、裕子に何度も頭を下げて帰っていった。その1時間後、岳人の手術は無事に終わった。