なぜか夫婦の年収を把握する義母
「直樹さんも仕事、頑張ってますよ」
「何言ってるの。名前も知らないような小っちゃい会社の営業の人間を頑張ってるなんて言っちゃダメよ。そんなの誰でもできるようなことしかやってないんだから。稼ぎだって大したことないじゃない。詩織さんが家庭を支えてるんだから、直樹はちゃんと詩織さんに感謝しなさいよ」
そう言って美江は高らかに笑う。直樹は「ああ」と気のない返事をして、あいまいに笑う。
そんな直樹の態度に詩織は苛立ちを覚えた。直樹が仕事を頑張ってるのを見ている人間として、こんな風に見くびられていい気分ではない。言い返せばいいのに、どうして黙っているのだろうか。
それからも美江と話を続けたが、モヤモヤが心の中に残った。直樹を悪く言われたこともそうなのだが、どうして美江が2人の収入を知っているのかが疑問だったのだ。
確かに給料は詩織のほうが多くもらっている。ただそれは仕事の成果とは関係ない。年功序列の中小企業と、実力主義の外資系企業という、働く場所の違いが単なる給料の差になっているだけだ。もちろん、少し知識があれば詩織たちのだいたいの年収にあたりをつけることはできるだろう。だが、ずっと専業主婦で外に働きに出たこともない美江がそんなことを知っているとは到底思えなかった。
サンドバッグ状態の夫の諦め
「ねえ、もっと言い返したほうがいいよ。あんなの実の親でも失礼じゃん」
夕飯を食べ、2人は客用の寝室で寝る前の時間を過ごしていた。詩織は、帰ってきてからずっと美江にサンドバッグにされていた直樹に言った。
「いや、だって事実だし」
しかし直樹は力なく笑うだけだ。
「それでいいの?」
「いいんだ。俺は勉強でも就活でもことごとく母さんの期待を裏切ってきたから。しょうがないんだよ」
直樹はそう言って布団に入ってしまった。
直樹がいいというならば詩織はこれ以上何も言うことができない。
●実の息子である直樹に当たりの強い義母。息子夫婦へのいびつな関わり方の裏にある真相とは? 後編【なぜ夫婦の年収を把握? 義母が隠していた「監視の証拠」に衝撃…歪んだ支配から夫を解放した妻の正論】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。