「嫁は優秀、息子は無能」と罵る義母
辰雄への挨拶を済ませた詩織たちがリビングに向かうと、美江はお菓子と3人分の麦茶を用意してくれている。
美江は「今年は暑すぎる」「体調は大丈夫なのか」と詩織に話しかけ、詩織もそれに答え、「お義母さんも体調気を付けてくださいね」と付け加える。
直樹はこのとき何も言葉を発さない。ただ居心地悪そうに座り続けるだけだ。
「でも毎年毎年、詩織さんに来てもらうのは申し訳ないわぁ。お仕事は大変なんでしょう?」
「いえいえ、福利厚生がしっかりしてるので、夏休みも取れますし」
「そうなの? でも海外の企業とお仕事をされてるなんて大変でしょう? 立派よねぇ、本当に」
詩織は笑って首を横に振る。
「そんなことないですよ。あ、そうだ。この前ドイツのブランドが日本で新しく香水を販売することになって、そのイベントをプロデュースさせてもらったんです。お義母さん、前に金木犀の香りが好きって仰ってましたよね。もしよかったら使ってください」
詩織がそう言って鞄から香水を差し出すと、美江は頬に手を添えてため息をつく。
「あら、すごいわねぇ。こんなに優秀な人がお嫁に来てくれるなんて、本当に鼻が高いわ。ご近所さんも詩織さんのこと話すと褒めてくれるのよ」
「いえいえ、そんな」
「それに比べてうちはねえ、こんなのが息子だからねえ」
美江はちらりと直樹を見る。直樹は一切目を合わせようとせず、目の前のテーブルを凝視していた。