提案された「任意売却」という選択肢

その日の面談は30分と時間が区切られており、後日、加藤さんから改めて提案されたのが自宅を「任意売却」することでした。

任意売却とは、自宅が競売にかけられるのを回避するため、債権者である金融機関の許可を得て、ローンを残したままで自宅を売却することです。競売よりは市場価格に近い価格で売却できる可能性が大きく、その分、ローンの残債を減らすことができます。

私が「お願いします」と即答すると、加藤さんはすぐに金融機関と交渉して任意売却の同意を得、自宅の抵当権を外してもらいました。その上で、加藤さんの事務所と懇意で任意売却の経験も豊富な不動産会社を紹介してくれ、私はその不動産会社と媒介契約を結んで自宅を売り出すことにしたのです。

その時点で購入してから5年経っていましたが、私がひとりで暮らしている期間が長かったこともあり、物件の状態は悪くなかったようです。不動産会社の担当者は「最近はファミリー層の郊外の中古物件ニーズが高いので、売れると思いますよ」と言ってくれました。

言葉通りに、何件か内覧があった後、2カ月も経たないうちに売却先が決まりました。

予想を上回る売却価格で借金は200万円弱に

ここに来て不動産市場が上昇していたこともあり、売却価格は加藤さんや担当者の予想を上回り、残った借金は200万円弱で済みました。こちらは毎月2万円ずつ返済していくことになりました。ありがたいことに、加藤さんは債権者に掛け合って自分の弁護士費用も売却代金の中から捻出するよう手配してくれていました。

加藤さんには、もっと感謝しなければならないことがあります。加藤さんの尽力で、妻と復縁することになったからです。

任意売却を決めた時に、加藤さんから「元奥様にも連絡しておいた方がいいでしょうね」と助言されました。とはいえ、私自身は妻の実家が大変なことも知っているだけに、余計な心配をかけてはいけないという気持ちもあり、連絡することには後ろ向きでした。

加藤さんはゆったり構えているように見えて意外にせっかちな面もあり、私がぐずぐずして一向に行動を起こそうとしないのが気になったのでしょう。「水野さんが良ければ、私から元奥様にご連絡します」と言ってきて、私がしぶしぶ同意すると、速攻で妻に連絡を取ったのです。

妻は突然の知らせにさぞや驚いたと思います。しかし、任意売却があくまで住宅ローン破綻による競売を回避して債務を最小化する手段であり、私が娘の養育費を払い続けることを何より望んでいると聞いて安心したそうです。

私はそれまで知らなかったのですが、加藤さん自身もシングルマザーだったらしく、妻の苦労話を聞きながら、「自分の住宅ローンが払えなくても養育費は払いたいなんて、いい旦那さんじゃない。嫌いじゃないなら、復縁しちゃえば」とけしかけたと聞きました。

おかげで妻の方から連絡をもらい、娘と一緒にファミレスで何度か食事をしたりする中で、互いに復縁を意識するようになったのです。