まさか息子が……
その通知を受け取ったのは、ちょうど昼休みが終わるころだった。
「ご利用明細確定のお知らせ」
月末になるとクレジットカード会社から届くいつものメール。だが、何の気なしにウェブ明細を開いた瞬間、心臓が跳ねた。
「……えっ? 何、これ……」
請求額が普段より明らかに多い。計算すると、身に覚えのない利用履歴は合計で24,800円。原因は、すぐに判明した。
「蓮のスマホだ……」
使いすぎ防止のために、クレジットカードの紐づけはしていなかったはず……いや、アカウントの共有でうっかり残っていたのかもしれない。
残業を片付けて、慌ただしく帰宅すると、蓮はいつも通りリビングのソファに寝転がってスマホをいじっていた。クッションを抱き、イヤホンを片耳に掛けたまま、タップする指がリズミカルに動いている。
「蓮、ちょっと」
低く呼びかけると、彼はちらりと顔を上げた。
「なに?」
「お母さんのクレジットカード、ゲームに使った?」
その言葉に、ピクリと身体がこわばるのが見えた。やっぱり、と思うのと同時に、胸の奥がじわりと重たくなる。
「蓮、ちゃんと答えて」
「だって、URが……出なかったから」
「は?」
「天井だったんだよ。今回のガチャ、特別でさ……もうちょっとで当たると思って。だから……」
意味が分からなかった。何となくゲーム用語だということは分かるが、それがカードを使ったこととどう繋がるのかがめぐみにはいまいち理解できない。聞き返しても、さらに知らないワードが増えていくばかり。蓮との間に共通言語がなくなってしまったようで、もどかしい。
「蓮、それ、お母さんのお金だよ。勝手に使っていいなんて、一言も言ってないよね?」
「でも……」
「でも、じゃない!」
つい声が大きくなった。自分でも抑えきれないくらいに、苛立ちが込み上げていた。
「なんで遊びに2万5000円も使うの? お小遣いだって、ちゃんと渡してるよね? 何がURだか天井だか知らないけど、人のお金を勝手に使っていい理由にはならない!」
蓮は何か言いかけて、口を閉じた。やがて唇をギュッと結び、スマホを抱えて立ち上がると、そのまま自室へと足早に去っていった。バタン、とドアが閉まる音。
めぐみはその場に立ち尽くした。怒り、というより、虚しさが勝った。深いため息が、誰もいないリビングに吸い込まれていく。
●めぐみは夫の力も借り蓮から事態が起こった理由を問いただす。そして、二人は蓮がスマホゲームに夢中になってしまったわけと、まるでギャンブルにはまらせるような、スマホゲームの仕組みを知るのだった。後編:【「ガチャ、天井、UR」ソシャゲ三昧の息子から飛び出す"意味不明"な言葉…絆を結び直すために母親が始めたこと】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。