子供らしくない息子
要領が良いのは、決して悪いことではないと思う。だが、夏休みが始まって1週間。友人とも遊ばず、日がな一日ソーシャルゲームやYouTube三昧。
今の蓮を見ていると、加速度的に「子どもらしさ」が失われていくようで、寂しい気持ちになる。
「ずっと家の中で動画とゲームばっかりじゃ、目も悪くなるよ」
「でも、外暑いし。何もすることないし」
蓮はスマホから一瞬だけ目を離して、素っ気なく答えた。
その返事に、何も言えなくなってしまう。
共働きのため、めぐみも夫も日中は家にいない。課外の水泳教室も終わってからは、特に予定もなし。家で大人しくしてくれるなら、それが一番安全で楽、と思っていたのはめぐみ自身だった。
風呂上がりに冷蔵庫から麦茶を取り出して飲んでいると、背後でドアが開く音がして、夫が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり。遅かったね」
「ちょっと残業。めぐみも?」
「うん、まぁね。それより……ねえ、蓮のことなんだけど」
ため息交じりに言いながら、2階を顎で示す。蓮はまだゲームに夢中らしく、時折「うお!」「やば!」とハイテンションな声が響いた。夫は腕時計を外しながら、めぐみの話を聞き、軽く肩をすくめる。
「宿題終わってるなら、まぁ……好きにさせればいいんじゃない?」
「でも、なんか、夏休みらしいこと、何もしてないっていうか……」
「何が“夏休みらしいこと”なのかは、蓮自身が決めることだよ」
いつも冷静で、客観的。そういうところが頼りになるが、ときどき悔しくもなる。
「昔の自分を思い出すとさ、別に毎日泥だらけになって遊んでたわけじゃないし。漫画読んで、昼寝して、テレビ見て。そんなもんだったよ」
「……それでも、何か思い出に残ること、してあげたいなって思っちゃうんだよね」
夫はうなずいて、めぐみの肩をぽんと軽く叩いた。
「そう思うなら、できるときにやればいいよ。無理して何かさせようとしても、たぶん意味ないし」
その言葉に、少しだけ気が楽になった。
自室にいる蓮は、また「激レア演出!」と叫んでいる。めぐみは夫と顔を見合わせ、ふっと小さく笑った。