新しい遺言書で知る、父の最後のメッセージ

さすがにここまで姉妹の対立が深まると人づてに私の耳にも入る。偶然にも高橋さんと私は徒歩5分圏内のご近所さん。共通の知り合いも多く存在する。

そこで私は姉妹に「噂を小耳にしたのですが……」とコンタクトを取り、私と高橋さんとで作り上げた別の遺言書が存在することを伝え、もう一度しっかり探してみてほしいと話した。

そこから数日後、次女から連絡があった。私の言う“新しい遺言書”が見つかったという。

見つかった遺言書の内容だが、そのすべてをここに書き記すことはできない。ただ、要約すると次のように書き記されていた。

「不動産の相続にこだわることはもうしない。すべての財産は換金し、それを次の割合で分けるように。長女55%。次女45%。これは、それぞれの過去の選択や現在の生活スタイル、経済力などを考慮したものである。2人とも、私の大切な娘であり、どちらが優れているということではない」

その後も紆余曲折あったのだが、最終的にはこの遺言書によって姉妹は互いの立場を理解し、和解へと向かった。

遺言書は「心」を伝える手紙である

一連の出来事を通じて私が改めて強く感じたのは、遺言書とは単なる財産分与の指示書ではないということだ。

遺言書が法的に有効であることはもちろん重要だが、それ以上に「なぜそう考えるに至ったのか」という故人の声が記された遺言書は、残された人たちにとって何よりの道しるべになる。

「本当に相談してよかった。これで娘たちは争わずに済む」

高橋さんと最後に会った日、そう言ってくれたことを私は今でもよく覚えている。

もし高橋さんが、私に相談することなく、自前の遺言書だけを残していたら、姉妹の絆に深い傷が残ったかもしれない。

もし、あなたが遺言書を考えるときがあれば、それは単に「遺す」のではなく、「伝える」ことでもあることを思い出してほしい。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。