<前編のあらすじ>

遺言書の相談に訪れた70代の実業家・高橋正男さん(仮名)。20代で起業し60代で引退した彼は、年金と不動産収入で悠々自適な生活を送っていたが、テレビの特集を機に自分の死後について考え始めたという。

ある程度の法的知識を持っていた高橋さんは自力で遺言書を作成したが、長女と次女への財産分与について、経済格差を考慮した自身の判断に迷いが生じていた。「あの子たち、昔から“平等”に敏感でね」と心配する高橋さんは、専門家である筆者との相談を通じて、想いを言葉にすることの大切さに気づく。

●前編:「長女には資産の7割、次女には残りを」年金と不動産収入で暮らす70代実業家が、娘たちに“不平等”な遺言書を作ったワケ

古い遺言書が引き起こした姉妹の亀裂

数年後、高橋さんが亡くなり遺言書が見つかる。見つかったその遺言書には「不動産はすべて長女に、現金は次女に」と明確に記されていた。私と書く前の遺言書、つまりは古い方の遺言書が先に見つかったわけだ。記載されていた日付も、私に相談をして遺言書を作成する前のものであった。

しかし、姉妹はそれが古い遺言書だということを知る由もない。次女は遺言内容に動揺し、長女には戸惑った。そのうえ、現金は既にほとんど使われており、不動産の評価額との開きは明らかだった。

「こんなの、不公平だよ……。お姉ちゃんはいつもそう。父さんまで味方だったなんて……」と次女が感情をあらわにし、長女への敵意をむき出しにしたことからも、状況の深刻さが察せられる。

後から知った話ではあるのだが、この時、姉妹の間では過去の出来事を含めて感情的なすれ違いが爆発。家庭裁判所で決着を、というところまで行っていたと聞いている。