思い出を作りたいのに

「だってさ、皆で思い出作りたいじゃん」

「近所でもそんなのできるよ。ゴールデンウィークは宿も飛行機代だってどこも高いんだから。わざわざどうしてそんな時期に旅行に行きたいって思うの? そんなの企業の都合の良い客じゃん。もうちょっと物事は考えてから動いたほうがいいと思うよ」

宏昌の言葉には明らかに成美を小馬鹿にするような感情が交じっていた。そんな見下した言い方をする宏昌に対して成美は怒りに震えながら言い返す。

「あなたはただ陸人の相手をするのが面倒なだけでしょ……⁉ 最初からそう言いなさいよ……!」

「は? そんなこと思ってないって。俺は皆のためを思って言ってるだけだよ」
成美は拳を握りしめる。

「どこが⁉ 私が行きたいって気持ちをただ否定してるだけじゃん! お金がかかるとか陸人が心配とか、できない理由ばっかり並べて、旅行に行こうとする方向で全然考えてくれてないでしょ⁉」
成美の怒声に宏昌は慌て出す。

「お、おいおい、大きい声出すなって。陸人が寝てるんだから」

すると寝室から陸人の泣き声が聞こえてきた。成美は最後に宏昌をにらみつけて寝室に向かった。

●二人の間に微妙な空気が流れるまま大型連休に突入。成美は友人の梨花に、つい愚痴ってしまうのだが、宏昌の気持ちもわかると言われてしまう。冷静に考えれば、夫の意見も一理ある。ひどいことを言ってしまったかもしれない。そう反省する成美。宏昌も思うところがあったようで……。後編:【夫がこっそり注文したのは…大型連休、旅行に行けず、ぎくしゃくしてしまった家族を一変させた出来事】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。